住所不備の注文は、たいてい「まあ、電話して直せばいいか」で処理されます。1件ずつ見れば数分の作業で、金額としても大きく感じません。だから対策の優先度が上がらないまま、毎月同じ件数が発生し続けます。
この記事は、その1件がいくらなのかを計算する話です。結論から書くと、運賃と同じくらいの金額が、人の時間と資材に消えています。金額にしてみると、対策に使える予算の上限も自然に決まります。
なお、国土交通省のサンプル調査では、2026年4月時点の宅配便の再配達率は約7.6%です(前回の2025年10月調査から0.7ポイント減。宅配便の再配達率サンプル調査)。これは配達した荷物のうち再配達になった個数の割合で、原因は不在が主です。住所不備による持ち戻りはこの数字とは別に、この上に乗ります。
試算式: 5つの費目に分解する
1件あたりのコストは、次の5つに分解できます。自店の数字を入れれば、そのまま計算できます。
| 費目 | 中身 | 埋め方 |
|---|---|---|
| 返送・再送の運賃 | 持ち戻りの返送分と、再発送分の送料 | 配送会社との契約単価。返送分の扱いは契約により異なる |
| 梱包資材 | 再梱包する場合の箱・緩衝材・伝票 | 1件あたりの資材原価 |
| CS工数 | 電話・メールでの連絡、住所の修正、伝票の作り直し | 実測の分数 × 人件費の時間単価 |
| 在庫の滞留 | 返送〜再発送のあいだ売れない状態になる | 回転の速い商品なら機会損失として計上 |
| 商品ロス | 生鮮・季節品・受取拒否後の再販不能分 | 該当する商材のみ |
このうち見落とされやすいのがCS工数です。1件20分でも、時間単価2,000円なら約667円。多くのストアでは、送料1回分と同じ規模の金額になります。
計算例: 1件2,300円、月5件で年14万円
数字を入れてみます。以下は計算の手順を示すための仮の数値で、自店の契約単価と実測時間に置き換えてください。
- 返送・再送の運賃: 800円(再発送分のみを計上)
- 梱包資材: 100円
- CS工数: 20分 × 時間単価2,000円 = 約667円
- 在庫の滞留・商品ロス: 0円(回転が速くない商材と仮定)
合計は約1,567円。ここに返送分の運賃も自店負担なら、約2,367円になります。
これを件数に掛けます。月間1,000件の注文があり、住所不備が0.5%の5件だとすると、月あたり約1.2万円、年間で約14万円です。注文が月5,000件なら、年70万円の規模になります。
金額の大小の感じ方は事業規模によりますが、重要なのはこの費用が注文数に比例して増えることです。住所不備の発生率と1件あたりの費用が変わらないと仮定すれば、売上が伸びるほど自動的に増える変動費として扱えます。
数字にならないコストが2つある
試算に入れない一方で、実務では効いてくるものが2つあります。
到着の遅延。 ギフト、発売日商品、着ていく日が決まっている買い物では、遅延そのものが商品価値の損失になります。返品や低評価レビューにつながった場合の損失は、上の試算とは桁が違うことがあります。
再購入率の低下。 「一度届かなかった店」は、それだけで次回の候補から外れます。CSが丁寧に対応した結果として関係が改善するケースもありますが、その丁寧な対応にかかる時間はすでにCS工数として計上済みです。
どちらも金額を置くと恣意的になるので、試算では0円として扱ったうえで「実際にはこれより悪い」と理解しておくのが妥当です。
この金額を、どこに使うか
試算の目的は、対策に使える予算の上限を知ることです。年14万円の損失に対して、月に数千円の対策なら十分に元が取れます。
工程ごとの対策の性質は次のとおりです。
- 出荷後に対応する — 上の試算そのままのコストが毎回発生します。何もしていない状態です
- 出荷前に目視でチェックする — 事故は減りますが、確認工数が注文数に比例して増えます。結局お客様への確認連絡も必要なので、CS工数はゼロになりません
- 注文確定前に自動チェックする — 入力した本人がその場で直せるので、以降の工程から確認作業が消えます。費用がアプリの月額に固定され、注文数に比例しなくなります
3番目の考え方の詳細は誤配送・再配達を減らす方法。住所不備を出荷前に防ぐに、Shopifyのチェックアウトで自分で触れる範囲とアプリが必要になる範囲の切り分けはECの住所入力ミスを減らすに、実装は日本の住所チェッカーにまとめています。アプリを比べる段になったら、日本語住所に対応する4本を含む6本の価格と無料枠をShopify住所チェックアプリ比較6選に並べてあります。日本の住所チェッカーは月100件までは無料プランで動くので、まず自店でどれだけ不備が検出されるかを測ってから判断できます。
自店の数字を1か月分測る
試算を自店のものにするには、次の3つを1か月記録するだけで足ります。
- 住所不備が原因で連絡・修正した注文の件数 — CSの対応記録から数えます
- 1件あたりにかかった時間 — 電話やメールの往復も含めた実測。想像で埋めないでください
- 返送・再送が発生した件数と運賃 — 配送会社の請求明細から拾います
この3つが埋まれば、あとは掛け算です。対策の是非を「感覚的に多い気がする」ではなく金額で議論できるようになり、優先順位も決まります。
まとめ
- 1件のコストは運賃だけではない。CS工数が運賃1回分と同規模になることが多い
- 計算例では1件あたり約1,567〜2,367円。月5件で年約14万円。注文数に比例して増える
- 到着遅延と再購入率の低下は数字にしない。試算は「これより悪い」前提で読む
- 対策の予算上限は試算から決まる。まず自店の件数・時間・運賃を1か月測る